この歳になると、ほとんど”白状”の領域だが、これまで源氏物語を通読したことがなかった。日本最古、いや世界最古の長編小説の一つであり、欧米でギリシャ神話がさまざまな表現や比喩の前提になるように、日本文化やその精神性を表現する時の暗黙の前提になってきたこの物語は、日本文学の礎の一つとも言える。にもかかわらず、上代、中古と分類される日本のいわゆる古典言語や、物語の理解に不可欠な古今集など和歌に関する個人的な無知、社会体制や感覚の隔たりを越えた理解ができないのではないかという恐れに尻込みして数十年。とても有名な箇所を拾い読みくらいはしたけれど、それもあまりに断片的で、固有名詞くらいしか記憶には残っていなかった。
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