月別アーカイブ: 2019年4月

Lazzaro – 幸福なラザロ

善を善と認識しないほどの、無垢な存在が満たす幸せに浸る観客。だが劇場を出る時、反転した世界に追い出されてしまうような不安にかられるかもしれない。そろそろ我々は、天に見放されてしまうのではなかろうか、と。心を満たした静寂という真水を、こぼさずそっと持ち帰りたくなるような作品だ。映画「幸福なラザロ」が公開された。

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In the aisles – 希望の灯り

生きることの厳しさを浮き彫りにしつつも、愛おしい寓話のような作品だ。ドイツ・ライプツィヒ近郊の巨大スーパーを舞台に、そこに働く人々の慎ましく実直な日々と、静かに交錯する内面を描いた映画、「希望の灯り」が公開されている。

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Les Grands Esprits – 12か月の未来図

東大の入学式で上野千鶴子氏が、熾烈な競争を勝ち抜いてこの場にいるあなた方は、恵まれた環境であったからこそだという趣旨の祝辞を述べた。「がんばったら報われる、と思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してほめてくれたからこそ」であり、努力しても報われない人々への想像力を欠いてはいけない、と。公平な制度があっても、歴然と存在する格差。その中で葛藤する教師と生徒を描いたフランス映画「12か月の未来図」が公開されている。

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Shock and Awe – 記者たち

元号で振り返る「時代」は日本人だけのものだが、それでも平成はどんな時代だったかを考える時、911(アメリカ同時多発テロ)ははずせない。あの日を境に、米国だけでなく、世界中の精神的な地図が塗り替えられてしまったからだ。過去の恐怖に培われた未来への不安は、平常時ならあり得ない出来事を見過ごし、妄信させる負の力を生む。そうした負の力を最も忌避すべきメディアのほとんどが引きずられていく様子と、最後まで戦った数少ない人々を描いた映画「記者たち 衝撃と畏怖の真実」が公開された。

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