話は明治から始まり、終わりは昭和初期。北九州の港湾荷役労働者、金五郎が主人公。アフガニスタンで亡くなった中村哲さんのおじい様だ。読んでもいないのに、私の中でこの「花と龍」の印象が”任侠もの”の空気を纏っていたのは、映画の影響とはいえ恥ずかしいほどの無知。反暴力を貫き、弱者に寄り添って働き続けた玉井組の親分、金五郎の生涯に、中村哲さんの”血”を感じる半ば実話の物語だ。
貨物船を舞台に仕事を奪い合う描写は、知らない語彙がごろごろしているにも関わらずその迫力に気圧される。「殴りこみ」を告知されても、静かに座って待つ金五郎の姿に恐れをなす相手方が、何もせずに引いていく場面は小気味よいが、彼を支える妻のマンの気丈さと心の広さが、金五郎の強さと車の両輪のように小説の最後まで走り続ける。襲撃されて怪我をした金五郎を救いに、マンが馬を駆って出る一幕には、誰もがしびれるはずだ。
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